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■道徳経済合一説について
「日本資本主義の父」とうたわれた渋沢栄一さん(1840-1931)は、『論語』の精神に基づいた経営哲学を説いていました。
グローバル資本主義の行き過ぎを懸念する声が強まる中、「公益」追求の経営を重視したその理念が、改めて注目を集めています。
「道徳と経済は両立させることができる」という『道徳経済合一説』です。
この考え方の根拠を、彼は自らの信奉する儒学、とりわけ『論語』に求めたのです。
渋沢栄一さんは、道徳を「論語」、経済を「算盤(そろばん)」と言い換えて「論語と算盤を一致させることが重要だ」と説いたのでした。
●経済にとって道徳は不可欠。
●道徳にとって経済は不可欠。
道徳と経済は表裏一体であり、不可欠であるとの考え方が『道徳経済合一説』です。
『道徳経済合一説』は、2008年のリーマンショック前後でも、日本で見直されるとともに、海外でも注目を集めています。
その背景には、私的利益の追求に過度に走りがちなグローバル資本主義・市場経済に対する人々の不信感や危機感があるように思われます。
経済活動が円滑に行われ、永続的な利益を得るのに不可欠と渋沢栄一さんの考えた消極的道徳は、「不誠実に振る舞うべからず」「自己の利益を第一には図るべからず」の2つに集約されます。
「自己の利益を第一には図るべからず」という道徳を経済活動に適用することには、違和感を感じる人が多いかも知れません。
「ルールを守る限り、自己利益の追求にいそしんでかまわない」と言うのが、市場経済の【常識】だからです。
しかし、渋沢栄一さんは、もしも皆が自己利益第一で商売をしたら、互いに利を奪いあって結局は共倒れになり、経済どころではなくなると考えました。
互いに他者の利益を第一に図ってこそ、円滑な経済活動が可能になると主張したのでした。
「他者の利益を第一としてこそ、やがて自分も永続的な利益を得られる」と考えです。
この道徳は、経済活動において自己中心的であることを戒めるものあって、自己利益の追求それ自体を戒めるものでは決してありません。
渋沢栄一さんは、「消極的道徳」も重視しましたが、「人々の生活を経済的に心配のないものにし、さらには豊かにすべし」という「積極的道徳」を最重要視しました。
「これからは民間の我々が経済活動を通じて、この役割の中心的な担い手にならなければいけない」と考えたのです。
「国家の隆盛を望むならば、国を富まさねばならない。国を富ますには、科学を進めて商工業の活動によらねばならない」と言うのが、渋沢栄一さんの基本的なスタンスです。
渋沢栄一さんは、「公益」の追求を目指したこうした経済活動が活発に行われるためには、それに携わる企業や個人が十分な利益(「私利」)を期待できることもまた不可欠だと考えていました。
他の人々が豊かになるだけで、自分には大した得もないのでは、人はその仕事に懸命に取り組む気になりません。
人は「事業を通じて自分自身の利益も得られる」という期待があってこそ、公益を増進するという究極の道徳にも熱心に辛抱強く取り組むことができるのです。
その意味でも、「経済(私利)なくして道徳(公益)なし」と言うことなのです。
我々は、ともすると「貧乏するのが道徳」と思いがちですが、渋沢栄一さんはむしろ「一人ひとりが豊かになっていくことが、道徳の基本」と言っているのです。
企業やその経営者が、より多くの利益を得るために不正を犯し、その結果、かえってその企業の破綻を招き、場合によっては経済全体にまで深刻な打撃を与えてしまう。
こういった事態を、世界はこのようなことを何度も目撃してきました。
改めて「誠実であることで必ず利益は得られ、しかもそうして得られた利益こそ永続的なものである」という渋沢栄一さんの教えに耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。
クエスト不動産経営管理(株) 石光良次